首が90度傾いたウサギさん

こんにちは、ポックル動物病院の伊村です。

最近すっかりロードバイクにハマっていまして、お休みの日には30〜70kmくらい走るのが日課になりつつあります。途中で見つけた地元のカフェで一杯、近くに神社があれば一礼、景色のいい場所で風に当たる。これがもう、たまらないんですよ。足は毎日悲鳴を上げていますが(笑)、新緑の北海道を自転車で抜けていく気持ちよさは、一度知ってしまうと戻れません。暑くなるのが嫌だなぁ・・・と思ってもいます。

そんな話とは裏腹に、わが家ではちょっとした事件が。新しくお迎えしたクランウェルツノガエルの「ぶんたん」ちゃん、我が家の癒し担当なのですが、その子の食べ残しのお皿を、黒猫のろくがぺろぺろと夢中で舐めているところを、見事に現行犯逮捕しました。普段から人の食べ物は狙う常習犯ですが、まさかカエルのごはんにまで…。
「え、何か?」みたいな顔でこちらを見上げてきましたが、顎にはしっかり証拠が残っていました・・・。

「うちの子、急に首が傾いてしまって…」

さて、本題です。

ウサギさんと暮らしている方なら、一度は聞いたことがあるかもしれません。「ある日突然、首がぐるんと傾いてしまって、まっすぐ歩けない」。これ、ウサギさんを診る獣医師にとっては、けっこうな頻度で出会うご相談です。中には90度近く首が倒れて、ごはんも自力で食べられない子も。「もうダメなんでしょうか…」と、本当に暗い顔でいらっしゃるご家族も少なくないんですね。

でも、ちょっとだけ待ってください。首が傾いている=もう治らない、ではないんです。

首が傾く、原因はだいたい2つ

ウサギさんの斜頸(しゃけい)の主な原因は、ざっくり言うと2つ。

ひとつは中耳炎・内耳炎で、耳の奥、平衡感覚をつかさどる部分に菌が入って炎症を起こすパターン。もうひとつが今日の主役、エンセファリトゾーン症です。微胞子虫という小さな寄生体が神経や腎臓を悪くしてしまう病気で、実はウサギさんには比較的多く感染している、けっこう身近な相手なんですね。

ここが厄介なところで、症状だけではこの2つ、見分けがつきません。
それでいて治療法はまったく違って、中耳炎なら抗生剤や外科処置がメイン、エンセファリトゾーン症ならフェンベンダゾールという駆除薬の出番になります。つまり「とりあえずお薬を出して様子を見ましょう」では、本当はその子の体を救ってあげられない、ということが起きうるんです(無駄な薬を出してしまう、という可能性も)。
だからこそ、「どっちなのか」を絞り込むのが、まず大事になります。

抗体価検査とマイクロCT

当院では、首が傾いて来院されたウサギさんには、できるだけ原因を見極める検査をおすすめしています。柱は2つ。エンセファリトゾーンの抗体価検査(血液で抗体を調べます)と、マイクロCT検査(中耳・内耳の中をミリ単位でのぞき込みます)です。

特にマイクロCTがけっこう頼もしくて、レントゲンでは見えないような細かい骨や、耳の奥に膿が溜まっていないかまで、はっきり描き出してくれます。「CTで中耳炎の所見がない」、「抗体価が高い」、この2つがそろえば、エンセファリトゾーン症の可能性がぐっと濃くなる、という流れです。

エンセファリトゾーン症は、長年、生きているうちに確定診断をつけるのが本当に難しい病気でした。「たぶんそうだろう」のまま治療する時代が長く続いていたんですね。近年、治療のガイドラインが整って、画像検査と組み合わせられるようになって、ようやくご家族にも納得していただける形でお話できるようになってきたかな、と感じています。

90度傾いた首が、まっすぐ前を向いた日

つい最近のことです。

首がほぼ90度傾いてしまった、あるウサギさんが来院されました。ご家族と一緒に、検査でわかること・わからないこと、治療にどれくらいかかりそうかをじっくりお話しして、抗体価検査とマイクロCTを実施。結果は、中耳炎の所見はほぼ無し、抗体価は陽性。
エンセファリトゾーン症が最も疑わしい、という判断になりました。

CTで中耳の精査を行いました。

そこからエンセファリトゾーンの駆除薬(フェンベンダゾール)で治療スタート。最初はご家族も「後遺症が残るかも」と思われていたようですし、私もそう思っていました。

その後少しずつ傾きが浅くなって、ごはんが食べられるようになって、今ではすっかりまっすぐ前を見て、お家を駆け回っているそうです。診察室でその姿を見せてもらい、なんともいえず嬉しい気持ちになりました。
※トップ画像は、完治する前の写真です。この後、ほとんど傾きが分からないレベルまで回復してくれました。

正直にお伝えしておきたいことも

ここまで読んで「じゃあ、必ず治るんですね!」と思われたかもしれませんが、そういうわけではありません。

エンセファリトゾーン症の治療には、知っておいていただきたい現実もあります。治療は数週間から、長ければ数ヶ月。元通りまっすぐに戻る子もいれば、傾きが残ってしまう子もいます。

それでも、これは「だから治療しても無駄」というお話では決してなくて、むしろ、こうした現実をきちんと共有した上で、一方的に方針を決めるのではなく、その子と暮らす方の生活や価値観も含めて、一緒に検査・治療を選んでいく。エンセファリトゾーン症は、特にそういう向き合い方が大事になる領域だと感じています。

ウサギさんの神経症状は、「よくわからないけど、首が傾いているね」で終わってしまうことも、正直、ある世界です。だからこそ、私たちは適切な検査をして、絞り込んで、その子に合った治療をしたいと考えています。

もし今、ご家族のおうちに「最近、なんだか首が傾いてきた気がする」というウサギさんがいらっしゃったら、是非相談してください。セカンドオピニオンでも全然構いません。当院でもなくていいので、まずは相談しやすい獣医師に、声をかけてみてくださいね。

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