犬のマダニのおはなし

すっかり雪が溶け、自転車に乗れる喜びを噛み締めている獣医師中村です。

最近は春らしくあたたかい日が増え、わんちゃんの飼い主様は愛犬とのお散歩が楽しい季節ですよね。
冬の間は行けなかった公園や河川敷など、お気に入りのお散歩スポットに行く機会がぐんと増えると思います。
必然的に野外でマダニに遭遇する機会も増え、マダニ予防が重要になってきます。

すでに先週、当院のブログやインスタでもマダニ予防についてお知らせしていますが、今回はもう少し掘り下げてお話ししたいと思います。
というのも、例年、ワクチン接種やフィラリア予防はしっかりされているのに、マダニ予防はされていない飼い主さんが少なからずいらっしゃるのが気がかりでして…
マダニは、動物のみならず我々人間にも健康被害を与える可能性があるので、ぜひとも予防をおすすめいたします!
(※北海道にもノミはいますが、マダニと比べると寄生の機会がかなり少ないので、今回はマダニに絞ってお話ししますね)

◎マダニについて

マダニは、森林や草地など屋外に生息する比較的大型のダニで、食品等に発生するコナダニや、絨毯や寝具に発生するヒョウヒダニなど、家庭内に生息するダニとは全く種類が異なります。
マダニは、ほ乳類や鳥類などの動物の体表に寄生し吸血します。
北海道では、主にヤマトマダニとシュルツェマダニの2種類が生息しており、春の雪解け直後から出現し、シュルツェマダニは7月まで、ヤマトマダニは10月頃まで見られるとされています。
山林や民家の裏庭、キャンプ場、河川敷などの草むらであればどこにでも生息しており、葉の裏などに潜みながら動物や人が通るのをを待ち構え、二酸化炭素、体温、振動などの刺激を感じ取って、その体に飛び乗ります。
こうして動物や人の体に乗り移ると、吸血に適した場所を探して体の上を歩き回り、場所が決まると口器を皮膚に刺して吸血をはじめます。口器からセメント質を分泌しがっちりくっつくので、1日もするとダニの体を引っ張っても皮膚から取れなくなります。吸血期間は数日から10日間以上に及び、吸血が終わると自分から脱落し、しばらくすると産卵します。

吸血後のマダニは元の大きさの数倍に膨れ上がり、小豆やコーヒー豆くらいのサイズになることもあります。こうなると飼い主様が「できものができたみたいなんだけど…」といらっしゃることも少なくありません。

◎マダニの害

●直接的な害
 ①貧血・・・マダニに大量に寄生され、大量に吸血されると貧血を起こしてしまう可能性があります。特に体の小さい子は要注意です。
 ②皮膚炎・・・マダニが吸血する際に注入された唾液が体内に入り込むことで、アレルギー反応などから皮膚炎や炎症が起きる可能性があります。

●病原体への感染
 病原体を保有するマダニに血を吸われると、命にかかわるような恐ろしい感染症にかかる危険性があります。マダニ媒介性疾患には動物だけではなく人にも感染する人獣共通感染症もあるため、注意が必要です。
一例を挙げると、
 ・バベシア症・・・バベシア原虫が犬の赤血球に寄生し、貧血をおこします。西日本で多い感染症です。
 ・ライム病・・・ボレリアという細菌による感染症です。犬では主に発熱、食欲不振、関節炎などの症状がみられます。人獣共通感染症ですが、犬→犬や犬→人間へは感染しません。
 ・SFTS(重症熱性血小板減少症候群)・・・SFTSウイルスによる感染症で、発熱、消化器症状が見られます。犬は無症状のことが多いようですが、猫では重症化することがあります。また人でも神経症状や出血症状を呈し、死亡例もあります。マダニによる感染のほか、発症した動物から人への感染、人から人への感染も確認されています。

特にSFTSは、ニュース等でご存知の方も多いと思います。西日本での発生が主で、今の所北海道での発生はありません。しかし、北海道でもSFTSウイルスの遺伝子を持つマダニが確認されているとのことですので、注意が必要だと思われます。

◎マダニ予防

決して脅かすわけではないのですが、マダニの恐ろしさをお分かりいただけたでしょうか?
寄生されてから時間が経つほど、病原体に感染するリスクも高くなりますので、マダニがくっついてるのを見つけてから対処するのではなく、そもそも寄生させないことが重要です。
むやみに草むらに突っ込まないようにするのは必要ですが、マダニが潜んでそうな場所を完全に避けるのは難しいですよね?

●最も効果的な方法は、予防薬!
 先週のブログやインスタでもお知らせしましたが、皮膚に垂らすスポットタイプ、錠剤、おやつのように食べるタイプなどありますので、使いやすいものを選べます。ほとんどが1ヶ月に1回の投与でOKです。どれがいいか迷ったら、ご相談ください。
推奨予防期間は、4〜11月です。
なお、市販のノミ・マダニ予防製品は、効果が低いものも多く、おすすめしません。

●散歩から帰ったら、ブラッシング&マダニチェック
 マダニは、一般的に被毛が薄く、皮膚の柔らかい部分や湿気の多い部分を好みます。
特に頭や耳、目のふち、お腹、指の間などチェックしてみてください。余裕があれば、全身をサッとブラッシングするとマダニを見つけやすく、また吸血前に落とすことができるかもしれません。

●やってはいけないこと!
 マダニがくっつているのを見つけると、つい引っ張って取りたくなるかもしれませんが、上述したように吸血を始めたマダニは皮膚にがっちり食い込んでおり、無理に引っ張ると口器だけが千切れて皮膚に残り、炎症や化膿を起こすことがあります。
またマダニの体を摘んで圧迫すると、マダニの体液が流入してしまうので、見つけたらご自分で取らずに動物病院にご相談ください。
卵や病原体が飛び散ることがあるので、マダニを潰すのもNGです。

少し長くなりましたが、しっかりマダニ対策をして、これからの季節わんちゃんとのお出かけを楽しんでくださいね!

この記事を書いた人

獣医師 中村
獣医師 中村
出産を機に仕事から離れていましたが、また獣医師として動物と関われることになり、嬉しさと同時に身の引き締まる思いです。
動物と飼い主様の両方に寄り添った診療ができるよう、努めて参りますので、よろしくお願いいたします。

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